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の知的好奇心を満たしてくれるわけでありますが、またそういう意味では私どもの生活の心の琴線に触れるものも多いと思います。異文化に触れて見聞を広める、また感受性を高めるということもあります。
しかし、私どもがシルクロードの文化に触れたものと欧米で接した文化とでは、やはり受け止め方が違うのではないかというように思います。多くの日本人がシルクロードの旅を楽しんでおられます。これは珍しいものを見るということではなくて、シルクロードの国々の中に私どもに関わりの深いものが少なからずあるからではないか。すなわちそこには私どもの文化のルーツがあるというふうに思います。
シルクロードの周辺諸国の方々と私ども日本人が人種的に同じであるかどうか、そういうことは人類学についての専門外である私にはわかりません。しかし、私どもの文化がシルクロードを通って伝わってきたことだけは間違いない。それは今取り上げましたごく一例からでもご理解いただいたとおりであります。しかもその文化は私どもが西洋文明の中で見出すものとは違った、私どもの原点に近いものが、これは精神的なものも含めてですけれども、それらの国々の中で見つけることができるからではないでしようか。
時々私どもは、もしも正倉院宝物がこの世に存在していなかったとしたら、一体私どもは日本人としてのアイデンティティを何に求めたらよいか、少し大袈裟ですけれども、そういうふうに考えることがあります。
たまたま私が正倉院宝物の管理をしておりますので、よけい正倉院宝物が日本文化を考える上で大変重要だと思うのかもわかりませんが、恐らく大多数の日本人も私どもと同じように、あるいはそれ以上に正倉院宝物の役割を認識し、その宝物の彼方にシルクロードを見ているのではないでしょうか。
多くの日本人が正倉院を通してシルクロードを見ている、あるいは逆にシルクロードから正倉院を眺めるということも現実に行われています。そこにはお互いの間に、類似の宝物があるという、文化の共通性を認識するというだけではなくて、私ども日本人の文化の源流がそこにある。それは心のよりどころにもなるものがあるからではないでしょうか。少し強引過ぎると受け取られるかもわかりませんが、シルクロードとはそのような魅力を、あるいは魔力かもわかりませんが、そういうものを持っているのだと思います。したがって私ども日本人にとって、今後さらにシルクロードの重要性が高まるものと確信をしております。
最後になりましたが、大変貴重なフォーラムでこのようなお話をさせていただきましたことに主催者並びにご参列の皆様方に改めて感謝し、この話は今後の会議の上で何ほどかのご参考になりましたら大変幸いに存じております。会議の成功を祈念いたしまして私の話を終わらせていただきます。
どうもご清聴ありがとうございました。

 

 

 

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